[06]かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける(中納言家持)
(訳)鵲が天の川にかけ渡した橋に置いた霜の白いさまを見たら、夜がすっかり更けたことだよ。
七夕のときに、鵲が天の川の上で広げた羽を並べて橋の代わりにして織女を渡したという中国の故事を踏まえる。冬の夜更け、天の川が白く冴えまさっていたのは霜が降りたからだと見立て、冬の厳しく冷えた夜を実感する。もしくは30忠岑の類歌と照らし合わせ、宮中の、殿上にのぼる階段に降りた霜を見たときの歌とする解釈、また両方の光景を重ね合わせたものとする見方もある。新古今集・冬に入る。
作者とされる大伴家持は万葉集を現在の全二十巻・約4500首の形にととのえた人物で、自身の歌を470首余りも収める。ところがこの歌は万葉集にはない。平安時代中期に流布した家持集に入る一首。これは万葉集に伝わる歌や古今集の歌などを集めて家持の名前を冠したもの。新古今集はここから採録した。なお、同じような性質の歌を集めて3人麻呂の名を冠した人麿集(人丸集、とも)には「かささぎの羽に霜降り寒き夜をひとりぞ寝ぬる君を待ちかね(鵲の羽に霜が降りた寒い夜をひとりで寝たことです、あなたを待ちきれずに)」という、待ち人の来なかった女性の気持ちを詠んだ歌がある。並べてみると、この歌も待ち人が来なかったことを嘆いたものではなかったか。男の訪れを期待して起きつづけ、ふと空を見上げると夜も更けてしまった。詠嘆「ける」にはむなしく待ちづけた思いがこもる。