[49]御垣守衛士のたく火の夜は燃え昼は消えつつ物をこそ思へ(大中臣能宣朝臣)
(訳)御垣を守る衛士のたく火が夜は燃えて昼には消えるように、夜は恋の思いに燃え、昼は今にも消え入りそうに物思いし続けているのです
宮中を護衛する衛士のたく篝火に思いをよそえたもの。上二句が序詞で「夜は燃え昼は消え」を導く。「火」を掛けて、夜にはあの人への「思ひ」も燃え上がり、昼には火がすっかり消えたように息絶えそうなほど苦しいとうたう。能宣と同時期を生きた53藤原道綱母『蜻蛉日記』に、夫の兼家に「衛士のたくはいつも」と言いかけるくだりがある。また、そのころ流布した歌を広く集めた『古今和歌六帖』という歌集に「君が守る衛士のたく火の昼は絶え夜は燃えつつ物をこそ思へ」があり、55藤原公任撰の『和漢朗詠集』にも「御垣守る衛士のたく火にあらねどもわが心の内に物をこそ思へ」と同想の歌がある。この時代、流行した着想のようだ。ただし約480首を収める『能宣集』にはない。出典は詞花和歌集・恋上。『古今和歌六帖』歌がいささか形を変えて能宣の作として定着したらしい。「夜」と「昼」、「燃え」と「消え」の対比が視覚を刺激し、明け暮れ物思いに苦しむ男の姿を確かなものにする。
この対比は、21素性の古今集歌「音にのみきくの白露夜はおきて昼は思ひにあへず消ぬべし(噂にばかり聞くあの人を、菊の上の白露が夜置いて昼には消えるように、夜は寝られず起きて思い、昼は思ひに耐えきれず消えてしまいそうだよ)」の応用。ここでも古歌に学んでいる。