10 結びの一番

[40]しのぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人のとふまで(平兼盛)

(訳)忍び隠していたけれど顔色に出てしまったよ、私の恋は。「物思いをしているのですか」とまわりの人が尋ねるまでに。

 

 20組40首に及んだ天徳内裏歌合の最後に詠みあげられた歌。「色に出づ」で顔色に出ることをいう。出てしまった、というのは「に」から読みとれる。完了の助動詞「ぬ」の連用形。この助動詞は、自分の意思とは関係ないところで自然とそうなってしまった結果をあらわす。詠嘆「けり」を伴うことで、顔色やそぶりに出ていたことに気づかされたおどろきや戸惑い、もう仕方がないというあきらめ、この後どうなるのかという不安、など、汲めども尽くせぬ思いが込められている。下の句の第三者のさめた目線でのセリフが、この戸惑いを客観的に見せる役割を果たしている。

 この歌の相手は41「恋すてふ」であった。判者・実頼(さねより)(は優劣を決しきれず、補佐の高明(たかあきら)(に丸投げする。高明も恐れ入るばかりで判断できない。この間、両陣営は繰り返し自陣の歌を朗唱し、勝ちをアピールする。実頼はしきりに帝の様子をうかがう。すると帝が二度三度この歌を口ずさんだことに気づく。高明が「帝のご意向はこちらにあるのでは」と進言する。実頼も同意して兼盛を勝ちとした。

 が、帝は両方の歌を口ずさもうとして、たまたま最初がこちらだった、それを早合点して勝ち負けを決めてしまった、との見方もある。実頼も厳しい判断を迫られたのであった。

暁星高等学校教諭 青木太朗